奪 わ れ た 王 女 Ver. A


 すっごい昔の原稿なので かなり恥ずかしいですが…(笑)
 リネッタさんを加えてワイワイやってるシーンを(せっかく書いたので)残しておきたかったのです。


「リネちゃん! リネちゃん起きて!!」
 誰かがわたしを呼んでいる――。
 金縛り、ってやつかな、とリネッタは思った。何度か経験がある。
 意識はあるのに、ふわふわしていて。体が、まぶたが、言うことを聞いてくれなくて。
 えい、と、リネッタは無理やり意識を浮上させた。
 ウソみたいに明るかった。
「リネちゃん!!」
 サラが至近距離から覗き込んでいた。
「姫様……」
 呟いて、ゆっくりと体を起こす。何故か、自分はゆかで寝ていたようだ。
「ええと……?」

 × × ×

「これ見ろ、これ」
 バートが面白くもなさそうに、一枚の紙切れを差し出してきた。
 受け取りながら、リネッタは、何だかイヤな予感に胸が高鳴った。

『我々はピアンの姫を預かっている。
 返して欲しくば、取り引きをしようではないか。
 我々の欲するものは、『キグリス王家の指輪』だ。
 その『指輪』と引き換えに、ピアンの姫を返そう。
 (中略)
 こちらの要求が飲めない場合、姫の命はないものと思え。
  ”グリフィス盗賊団”』

「……まじで?!」
 リネッタは思わず叫んでいた。
「カンベンしてよ、もう……」
 ひたいに手をやって、頭を高速回転させて状況を整理してみる。
 ここで、一緒に紙切れを覗き込んでいるのは、バート、姫様、そしてわたしの三人だけ。
 ――キリアとりっさんの姿が無い。
 そして、『ピアンの姫を預かった』と言ってる割には、ピアンの姫はここにいて。
「……」
 リネッタは、取り敢えず大きく息をつくしかなかった。

 × × ×

 最初は、夢なのか現実なのかわからなかった。
 意識はあるのに、何も見えない。
 誰かの足音に合わせて、上下に揺れている。
「?」
 まさか。
 キリアは、状況を把握する。
 ――目隠しされて、誰かに背負われて、どっかに運ばれている……?
 一体誰が?! 何のために?!
 私は――
 もしかして、どっかで殺されちゃうの……?
(!! イヤだ!!)
 叫びたいのを、ぐっとこらえる。
 ――どうしよう……!!

 × × ×

 いつになくさわやかに目覚めたリィル・ルビアンは、大きくのびをしながら「あれ?」と思っていた。
「何で野宿してんだ、俺……」
 太陽は低めの位置から照らしている。ここはまぎれも無い野外だ。十歩と離れていないところには、『道の駅』の小屋の扉が見える。
「まさか夢遊病?! ヤダなあ……」
 何気なく頭に手をやって。触れた後頭部がズキリと痛んだ。
「!!」
 リィルは昨晩のことを思い出した。
 サラに手品をせがまれて。ついつい調子に乗って……
 ――仕切り直すために、みんなにお酒渡して、外へ出たんだっけ。
 そしたら、突然、誰かに後ろから殴られて。
「……みんなは?!」
 思いついてからの行動は早い。ダッシュで扉まで辿り着き、開けて小屋の中に駆け込む。
 深刻な雰囲気で何かを話し合っていたらしい、バート、サラ、リネッタの三人がこちらを向いていた。
「リィル!」
「リィルちゃん!」
「りっさん!」
 三者三様に叫ばれる。
 一人、足りない。この状況は素直に喜べない。
「みんな、何かあった?!」
「まあな」
「リィルちゃんは無事だったのね。よかった……」
「キリアは?」
「まあ、取り敢えずこれ見てよ、これ」
 リネッタに差し出された紙切れを受け取り、目を通す。
「……………………なるほど」
 読み終わって。
「つまり、キリアは」
 諦め半分で、口にする。
「サラと間違えられて、連れ去られた、と……?」
「……あたしがこんな格好してたからだわ……」
 サラが泣きそうな声で呟いた。
 ――確かに、武道着姿の『姫』なんて あまり見ないよなあ……
 リィルは、心の中で呟いた。

 × × ×

「原因はコレか……!」
 窓の下の床にばら撒かれていた粉を指ですくって、リィルは呟いた。
「何だ、ソレ?」
 バートが覗き込んで、尋ねてくる。
 (中略)
「じゃあ、あたし達はこの粉が原因で、眠っちゃったってわけだったの?」
 と、サラ。
「うん。この窓から中に投げ込まれたんだよ。これで俺の疑いは晴れた?」
 リィルに言われて、リネッタは苦笑した。
「別にりっさんを疑ってたわけじゃないって。それにしても昨晩の行動は怪しかったけど」
「だって本気モードだったからさ、手品。そりゃ多少の『演出』って意味はあったよ、あのお酒。でも……まさかあのタイミングで賊に鉢合わせるとは」
「…………」
 沈黙が流れた。
「早く……キリア助けに行かなきゃ……!!」
 思いつめたような、サラの呟き。
「でも、まずは」
「身代品の用意……だね」
 リネッタが、改めて「脅迫状」に目を通しながら、言った。
「『キグリス王家の指輪』ねえ……。そんなに価値あるモンなのかな?」
「とにかく、キグリス首都なんだろ?」
 バートの問いに、リネッタが頷く。
「期限は3日か……」
 リィルは呟いた。
「リネッタ、『混沌の迷宮』とやらの場所は?」
「ここからならヴェクタで西へ丸1日ってとこだけど。まず首都行って、それから行くとなると、ギリギリかな……」
「っても、どーせやることは一つしかねーんだろ」
 バートは言って、立ち上がる。
「行くぞ」
 三人もうなずいて、バートに続いた。

 × × ×

 「道の駅」の扉を開けて、外に出る。
 数歩進んで、四人の足は止まった。
 ほぼ同時に声を上げる。
「キリア!!」
 キリアが倒れていた。
 後ろ手に縛られて、草むらに転がされていた。
 四人は慌てて駆け寄る。
「キリア!!」
「しっかりしてっ!!」
 リネッタとサラが悲鳴を上げながら、地面に横たわるキリアを抱き起こす。
 キリアの反応は無い。リネッタの腕の中でぐったりとしている。
「キリアぁ! キリアぁ!!」
 リネッタは大きく揺さぶった。サラはキリアの両手首に食い込んでいるロープを解こうと苦戦する。
「サラ、貸して」
 リィルがサラと位置をわる。リィルの手にかかると、ロープは手品みたいにするりと解けた。
「……う」
 キリアが、小さくうめいた。まぶたがゆっくりと持ち上げられる。
「あ……れ……?」
 リネッタと目が合って、キリアは呟いた。
「キリアーー!!」
「よかった……!!」
 四人は盛大に安堵の息をついた。

 × × ×

 小屋に戻って、リネッタがお茶をれてくれた。
「はい、キリア」
「ありがと」
 キリアは温かいカップに口をつける。
 みんながすごく心配してくれたみたいで、なんだか照れくさいような、嬉しいような。
 一時はどうなることかと思ったが……

「私、ピアンの姫に間違えられて、取り引きの材料にされるところだったの〜?」
 キリアは本気で驚いて、力いっぱい叫んでいた。
「心なし嬉しそうだね……。王女に間違えられたから?」
 まぜかえしてきたリィルを一発(はた)いてやる。
「ごめんなさいキリア、あたしのせいで……」
 サラは本当に申し訳なさそうに、下を向いて呟いた。
「え? ヤダ気にしないでよ、別に何もなかったし……」


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