第3部、「冒頭」の初稿です。初稿では第3部、このシーンから始まってました。
そして何を隠そう……長年の「小説書けない病」(スランプ)(ほんとに長かった)を乗り越え、初めて「小説として書いて、公開した」「四精霊の伝説」が、コレ、だったりします…。
ピアンとキグリス国境に位置する死火山「デスフレイム」。岩肌にはめ込まれた鉄製の古びた扉の前。バート=アルツが取っ手を握って手前に引くと、扉は何の抵抗もなくあっさりと動いた。しかし、この扉は、リィルとサラは動かせなかった扉だった。試すまでもなく自分も動かせないだろう、とキリアは思う。バートだけが開けられる扉なのだ。
バートは手を離して振り返った。視線の先――キリア、リィル、サラの少し前には、黒いスーツを着た男性が立っている。歳は三十代後半、キリアの父より少し若い。彼の名はエニィル=ルビアン。リィルの父だ。
「すごいなあ」エニィルは穏やかな調子で呟いた。
「そうか? 別に俺、大したことやってねーけど……」バートは複雑な表情になって首を傾げる。
「じゃあ入ろうか、バート君」エニィルはバートに声をかけた。振り返って、「君達はどうする?」と、キリア達三人にも問いかける。
「もちろん入ります」
「私も」サラに被せるようにキリアの声が重なった。思わず二人で顔を見合わせて、軽くうなずきあう。
「リィルは?」キリアは尋ねた。以前ここに来たとき、彼は扉の中に入ることを躊躇し、結局入らなかったのだ。「命に関わる」とか何とか言って。
「俺は……」リィルが言いかけたとき、エニィルが掲げた右手の指をぱちん、と鳴らした。その指の先の虚空が青く輝き始め、集まった光が次第に何かを形作る。そして、それは一羽の青い小鳥となる。その「不意打ち」には、キリアはびっくりして息を呑んで見守るしかなかった。青い小鳥は羽ばたいてエニィルの手を離れ、リィルの肩に下り立った。
「これで大丈夫」エニィルは息子に微笑んだ。「また置いてきぼりは嫌だろう?」
「すっごー……い……」サラが感動の呟きを漏らした。「今のがリィルちゃんが言ってた『手品』なのね。あたし、初めて見たわ……」
「でも、本当に大丈夫なの、これで……」キリアはリィルの肩の青い小鳥にそっと手を伸ばした。青い小鳥はひんやりとした空気をまとっている。触れたら飛び立ってしまいそうで、それ以上は近づけない。
「父さんが言うんなら、大丈夫だよ」リィルは自信を持って答えた。
バートを先頭に、エニィル、サラ、キリア、リィルの順で扉の中に入り、通路を進んでいった。先頭のバートがランプを掲げて歩いた。前のときと同じで、中は凄い熱気だった。だんだん汗が吹き出てくる。
「リィル、大丈夫か?」先頭のバートが後ろに向けて問いかけた。
「なんとか」リィルは短く答えた。
やがて、行き止まり――さっきと同じような鉄の扉に行く手を阻まれた。バートが手を伸ばして開ける。途端に通路がまぶしい光に照らし出された。扉の向こうは明るかった。
四方を石の壁に囲まれた「部屋」。高い石の壁にはぎっしりと「文字」が掘り込まれていた。古代語に似ているようだったが、キリアには解読できない。高い天井から降り注ぐ光。そして部屋の中央には、この世のものとは思えない、奇妙な
「エニィルさん」キリアは口を開いた。「これが、大精霊”
「そうだよ」エニィルは答えて、周囲の壁を見渡した。刻まれた文字を目で追っているようだった。
「読めるんですか?」キリアは尋ねた。
「うん」エニィルはうなずいた。「これは、超古代語だね」
「超古代語……?」キリアは聞き慣れない言葉を繰り返した。
「あれ。キリアちゃんは読めない? 大陸一の知識人、大賢者キルディアスのお孫さんでも?」
「読めません。でも、『超古代』って時代が、あったんですね。『古代』より、さらに昔に……?」
「そういうこと」
「じゃあ、これは……」キリアは奇妙な
「そう。四大精霊の伝説の、二千年よりも遥か昔の、遺産……」
「遺産?」キリアは問い返した。
「そうか」エニィルは呟いた。「パファック大陸では、『超古代』のことは、ほとんど知られていないんだね」
その言葉に、エニィルがパファック大陸の生まれでは無いことを改めて実感させられた。
「じゃあ、バート君。良いね?」
エニィルに言われて、バートは緊張した面持ちでうなずいた。キリアもエニィルから話は聞いていた。バートが扉を開けてここに入ったのは、大精霊”
「で。俺は何をどうすればいいんですか?」
バートに尋ねられて、エニィルは説明を始めた。「剣を抜いて、この像にこうやって、かざすんだ。両手でしっかり握ってて。離さないように」エニィルは奇妙な像に触れながら言った。
「熱くないんですか?」サラが心配そうに尋ねた。リィルはその像には近付きたくもないらしく、かなり離れたところから見守っている。
「このくらい何てことないよ。……バート君に比べたら」エニィルの穏やかな微笑が消えた。「いくよ」そう言って、エニィルは像に埋め込まれている石のひとつををぐっと押し込んだ。
その瞬間、ものすごい閃光が剣とバートを貫いた。
「うあっ!」バートが声を上げた。剣先が地面に落ちる。バートは両手で柄を握りしめたまま地面に片膝をついた。
「バートっ!」思わずキリアは叫び声を上げていた。
「完了」エニィルは小さく息をつく。
「バートっ、大丈夫?!」サラがバートに駆け寄って支え起こした。
「あ、ああ……。ちょっとびっくりしたけど」バートはサラに向けてへへっと笑ってみせた。それを見てサラもほっとしたように笑みを浮かべた。