「俺、今から首都に行く。止めても無駄だぜ」
街外れのヴェクタ乗り場まで一気に走って、バートはリィルに言った。本当はリィルをまくくらいの勢いで走ってきたのだったが、彼は良く追いすがってきた。
「言うと……思ったよ……」
リィルはバートの後ろで、まだ少し息を切らせていた。
「母親さんを……助けに?」
「イヤ、それはついで。どっちかってーと、父親をブチのめしに」
「……やっぱり」
リィルがふうとため息をつくのが聞こえた。
「じゃっ、そういうわけで、キリアたちによろしく」
言い捨てて、振り向かずにバートは歩き出す。
「待って」後ろからリィルに腕をつかまれた。
「なんだよ、やっぱり止めるのかよ」
バートはリィルを振りほどこうとする。リィルは掴んだ腕に力を込めて、きっぱりと言ってきた。
「俺も、首都に行く」
「……え」
ようやくバートはリィルを振り返った。リィルはバートを真っ直ぐに見つめていた。
「俺も、首都にヤボ用があってさ」
と、リィルは言う。
「ヤボ用?」
「うん。――俺も、いい加減そろそろ、真面目に探さなくちゃって思って」
「…………」
バートは少し考えてから口を開いた。
「……お前の父ちゃんたちを、か?」
「ん」リィルはうなずいた。
「じゃあ、まさか……」とバートは言う。
「お前の父ちゃんたちも、ピアン首都にいる、ってことなのか?」
「俺のカンではね」
と、リィルは答えた。
*
キリアとリネッタとウィンズムは、『隠れ家』でバートとリィルの帰りを待っていた。二人はなかなか戻ってこなかった。昼を回ったので三人で食事を取りに食堂に行き、――日がだいぶ傾いても、二人は戻って来なかった。
そして、夕方。一通の伝言が『隠れ家』のキリアの元に届けられた。その伝言を握り締めて、キリアは夕日で赤く染まった大通りを駆けていた。
(ウソでしょう?!)
キリアは信じられなかった。信じたくなかった。
(無茶よ! 無謀すぎる! たった二人で行っちゃうなんて……! 異世界軍団――ガルディア軍は、サウスポートから全軍あげて首都に攻め込んできたって……!)
靴音を響かせながら、キリアは南に向かって駆けた。
(どうして私に一言の相談もなく!)
その答えはわかっていた。それは、きっと、私がそんなの許さないから。もしくは「私も行く」って言って、聞かないだろうから。
(アイツらにとっての「私」って……)
右からの赤い光が、キリアの右頬を照らしていた。
『キリア、サラ、リネッタ、そしてウィンズムへ。
今まで、色々お世話になりました。
突然で悪いんだけど、俺とバートは、二人でピアン首都に行くことにしました。
俺もバートも、それぞれの目的のために。
俺たちの決意は固いから。
だから、絶対についてこないように。止めないように』
キリアは祈るような気持ちで
大人しく繋がれているヴェクタたちが、夕日で赤く染まりながら、キリアを出迎えてくれた。
しかし、
黒髪の少年と、茶髪の少年の姿は、
もう、どこにも見えなかった。
キリアはふらふらとその場に座り込んだ。
(私たちの旅は……)
決して楽しいことばかりではなかったけれど。
(これで、もう、終わりなの……?)
まさか、こんな形で、突然彼らと別れることになるなんて、思ってもみなかったから……。
(彼らには……また、会えるの?)
生暖かい風が、キリアの髪を揺らして、吹き抜けていった。